ボイルオーバー

当社は、大型原油タンクの全面火災に伴う、ホットゾーンの温度と成長速度の計算、更に消火後のタンク内油温変化を計算できるシミュレーションプログラムを開発しました。これにより個々の原油蒸留カーブについて、ボイルオーバー発生の可能性と時間を予測することが可能になりました。
また消火後、タンク内に残留する油を冷却するのに要する時間を予測することが出来ます。

 ボイルオーバー発生のメカニズムと災害 

火災における伝熱の特徴は油が上面から加熱されることです。そのため対流が起こりにくく熱伝導のみで燃焼面からタンクのボトムに向かって油中を熱が伝わって行く為、下方への伝熱速度が極めて遅い。図1に示したように燃焼面からの熱により油が過熱され蒸留が起こります。軽い留分はガスとなり液面に浮上し燃焼され、蒸留で残った油は熱い油となりホットゾーン(Hot Zone)を形成する。時間の経過とともに 蒸留が繰り返されホットゾーンの幅(高さ)が増えていき、ついにはタンクボトムに溜まっている水層に触れて水が急騰して、熱い油が吹きあげられる(図2)。吹き上げられた熱油は水蒸気をたくさん含んだバーニングフロスと呼ばれ、数百mも飛ぶことがあり、燃えた油が頭から降ってくる事もある恐ろしい災害である。

 

図1 ボイルオーバー発生のメカニズム

図2  ボイルオーバー発生時の災害

 ボイルオーバーが起こる条件 

様々な実験結果によると、ボイルオーバーは原油に限らず、他の可燃性液体でも下記のような条件が整えば起こりうる事が分かっている。

  • 一定温度のゾーン(hot zone  or  heat wave)が火災中に発生し,下に向かって拡大していく事。この為には多成分系で沸点範囲が広い燃料油であること。

  • 燃料油は粘性が高い事(泡が出来やすい)

  • 純物質やガソリン、重油などでもボイルオーバーは起こり得る。
    純物質など沸点範囲が狭い油は燃焼面下の高温部分の範囲が狭く,温度変化も指数関数的なカーブとなる。この高温層の下方移動速度も遅く,所謂,燃焼速度となるので,ボイルオーバーが起こったとしても吹き上げる油の量は既に少なくなっているので危険性は低い。実際に軽油や重油(沸点範囲が狭い)のボイルオーバー事故が発生している。

  • ホットゾーンの温度が120℃以上であること。熱い油がタンクボトムの水層に触れたとき、温度が100℃であれば水は沸騰するが水蒸気の発生量が多くないので、油が持ち上げられることが無く、水蒸気が泡となって抜けていく程度である。しかし120℃以上になると所謂、核沸騰が起こり急激に水蒸気が発生しタンク内で水平方向に広がり、油全体が持ち上げられてボイルオーバーが発生する。

 ボイルオーバーが発生する時間とホットゾーン温度の関係  


このシミュレーションプログラムにより様々な原油について計算した結果、右のグラフが得られた。多くの文献によるとHot Zoneの温度が低いほどその成長速度は速いと言う実験結果が得られているが、このグラフはそれをよく説明している。
また、ボイルオーバーが発生する最低の温度は120℃と言われているが、このグラフによると120℃の時の成長速度は1.06 [m/hr]となり、最大成長速度を1.0 [m/hr]としている LastFireの提言と一致する。
 

 

 ボイルオーバー検討の例 

蒸留カーブの異なる2種類の原油について計算した結果です。火災発生からボイルオーバーが起こる時間は、原油-2の場合1.8日、原油-5の場合2.6日という計算結果が得られた。
原油-5の様にホットゾーンの温度は300℃以上となるのが普通であるが、原油-2の場合には最初に温度の低いホットゾーンが発生し、再度初めから繰り返し、3回目にしてようやくホットゾーンの温度が120℃を超えるようなケースもある。

 
 


        

消火後の油温の変化について

消火後、タンク液面上部は高温であるホットゾーンで、その下はより温度の低い120℃未満の油層となっている。油層は水層に接しており界面を形成している。
温度の低い油層及び水層は上部の油により加熱されるが、上方向から加熱されるので各層の上部の温度が先に上がり密度が小さくなるため、対流は起きにくい。従って熱伝導により各層が加熱されていく事になる。熱伝導速度は対流伝熱に比べて極端に遅いため各層の温度上昇の為には長時間を要する事になる。
弊社のプログラムにおいては、油層内及び水槽内の伝熱は熱伝導によるものとして検討した。

上記計算例の直径80mの大型タンクの場合、風速6~8m/secの時、消火後600時間(25日間)かかって、ようやく約140℃まで油温が下がる計算結果となった。やはり大型タンクだけに、火災後タンク内に滞留する油の冷却には一月近い時間が必要であり、その間の防災対策も充分に考えておく必要がある。
尚、タンク全周に対して連続して放水冷却した場合、消火後300時間(12.5日間)で約125℃まで冷却できる計算結果が得られている。放水の効果は大きく、風の場合に比べて、約半分の時間で冷却出来る事がわかる。

またボイルオーバーが起こる前に消火に成功した場合でも、ホットゾーンは既に形成されている。上述したようにホットゾーンは次第に冷えてくるが水層に近い油層の温度は次第に上昇してくる。従って消火後もボイルオーバーの発生の可能性が残る。弊社のプログラムで検討した結果は大型タンクでは、その可能性は小さい事が分かった。しかし例えばドラム缶程度の容器だと消火後のボイルオーバー発生の可能性はある。

 寄稿文献 

"The CATALYST January 2015"に掲載されている当社の記事はこちらからご覧いただけます。
また下記、詳細な論文は横浜国立大学、大谷教授と共著文献であり、こちらからダウンロードできます。


 Prediction of Hot Zone Temperature and its Extension Rate Up to Boilover 
Hideo Ohtani, Professor, Department of Safety Management, Yokohama National University, Japan, and Yoshiyuki Kato, CEO of Corporation FPEC ,Japan,

Abstract

Simulation program was developed to predict hot zone temperature and its extension rate for a crude oil fire in a large tank. The calculated results are summarized in this report. Authors believe that these calculated results are reliable enough for an actual size tank fire, since the calculated results can well explain why around 1 [m/h] is the maximum hot zone extension rate in an actual tank fire as reported by LASTFIRE. Possibility of boilover and required time to cool down the hot oil after extinguishment of a crude oil tank fire were also studied by using another simulation program developed separately. In case of a large tank fire, it was found that possibility of boilover occurrence after extinguishment seems too little and so long days are required to cool the hot oil.