危険区域の精緻なリスク評価(最新IEC規格による防爆エリアの設定)
IEC規格(International Electrotechnical Commission)Part10-1 「Classification of areas-Explosive gas atmospheres」が2015年9月にドラスティックに変更されIEC 60079-10-1 Edition 2.0(以下「IEC Ed2.0」)が発行されました。
IoT機器を活用してプラント内のビッグデータを収集・分析・活用し、設備の予期せぬ故障やヒューマンエラーを防ぐ取組を進める必要があり、プラント内でのドローン飛行やセンサーやタブレット等の電子機器の安全な使用の拡大のニーズ、DX化推進に対応するため、経済産業省からIEC Ed2.0を基に2019年4月付で「プラント内における危険区域の精緻な設定方法に関するガイドライン」(以下「防爆ガイドライン」)が発行されました。
これを受けて消防庁より同年同月、消防危第84号「危険物施設における可燃性蒸気の滞在するおそれのある場所に関する運用について」が各都道府県消防に通達されました。
その後、IECでは2020年にEdition 3.0(以下「IEC Ed3.0」)が発行され、最新バージョンとなっています。なお、IEC Ed3.0によると、この時点でIEC Ed2.0は無効となっております。
IEC Ed3.0では、図表などについては、IEC Ed2.0からほとんど変更がありませんが、幾つか重要な点について改訂されております。
特に、液の蒸発量計算式の係数が約2.8倍になり、IEC Ed2.0よりさらに厳しい評価が求められます。
危険区域の精緻なリスク評価は、危険物施設における電子機器の使用拡大、DX化推進を主眼に開始されましたが、最近では、防爆機器に対応できない設備などのために非危険区域(非防爆エリア)を確保する換気方法や許容漏洩量などの条件設定、火気使用エリアの拡大と工事業務の平準化の検討(定修と日常工事の再アレンジ)など、新たなニーズも増えてきています。
弊社では、これらのご要望にお応えするため、防爆ガイドラインおよびIEC Ed3.0に基づく、危険区域の精緻なリスク評価を実施致します。
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これまでの防爆エリア設定方法
国内では、基本的には労働安全衛生総合研究所技術指針「ユーザーのための工場防爆設備ガイド」に従って防爆エリアを設定することになっていますが、より具体的かつ明確に定められている四日市市危険物規制審査基準など地方自治体の基準によって設定する事が多くなっています。これらの基準はAPI RP500, or 505(American Petroleum Institute)やNFPA497(National Fire Protection Association)などがベースになっており、いずれも下図のようなサンプル図に従って防爆エリアを設定するものです。
API 500
NFPA 497 -
防爆ガイドラインおよびIEC Ed3.0による設定方法
防爆ガイドラインおよびIEC Ed3.0では、防爆エリアの決め方が根本的に変更されました。これまでNFPAやAPIで提案されているようなサンプル図によっていたものが、漏れ量や拡散の程度を定量化する事によって、個別にリスク評価する方法に変わりました。
これまでは、上述したサンプル図によっていた為、可燃性の危険物であれば、その蒸気圧、分子量、漏洩の可能性に関わらず、ほぼ一律に危険区域が設定されていました。その為、プラント設備のある区画全体を危険区域として設定することがほとんどでした。
防爆ガイドラインおよびIEC Ed3.0では、リスクを評価する基準(漏洩口の大きさや風などの換気程度の示唆値)が提示されており、個々のケースについてリスクを評価し、危険場所か非危険場所かの判定が可能となり、結果として非危険場所の範囲が広くなることが多くなりました。危険場所と判定された場合にはその範囲(危険距離)もグラフから読み取る事が出来ます。
実際の適用
- ガスの状態で放出されるケースは規格通りに容易に計算できるので、リスク評価に当たって、それほどの困難は無く実施できる。
- 液で漏れて、地面に液だまりができ蒸発するケースは少し厄介である。
- 漏洩した液が沸点に達していない、地面からの熱に影響されない場合
風による物質移動計算に基づく蒸発速度計算となり、IEC Ed3.0記載の計算式に基づき蒸発速度を計算する。
この時の漏洩時間は現場パトロールなどの実態に合わせて、APIなどを参考に決定する。 - 漏洩した液が沸点に達している場合、地面の熱などに影響される場合
IEC Ed3.0の規定により、本条件の場合IEC Ed3.0に記載されている蒸発速度式は適用できないため、弊社では太陽熱、大気、地面などとの熱収支計算から蒸発速度を求める。 - 液で漏れてフラッシュする場合
フラッシュする場合も、上記同様、IEC Ed3.0に記載されている蒸発速度式は適用できないため、フラッシュ計算によりフラッシュ率を求め、残った液からの蒸発速度は別途計算する。このように、フラッシュガス量と蒸発ガス量を別々に分けて計算しないと危険距離の算定ができないので注意を要する。
- 漏洩した液が沸点に達していない、地面からの熱に影響されない場合
- 下記に挙げる漏洩物質の物性は、その温度ごとに求める必要があり、物性推算法も活用しなければならない。
- 純成分流体の場合
- ガスおよび液の定圧比熱、比熱比、密度、蒸発潜熱、蒸気圧など。
- 蒸気圧はアントワン定数から計算する。
- 多成分流体の場合
多成分流体は組成変化を考慮する必要があるので、さらに複雑である。- ガスおよび液の定圧比熱、比熱比、圧縮因子、密度、蒸発潜熱、蒸気圧、分子量、爆発下限界、沸点、液の組成など。
- 蒸気圧はアントワン定数から各成分の分圧を計算し、ラウールの法則を適用し多成分系の分圧を求める。
- 爆発下限界はルシャトリエの法則により計算する。
- 多成分流体に水(H2O)が含まれている場合、フラッシュ計算・蒸発計算などは水分を含んだ計算とする必要があるが、分子量、ガス密度、爆発下限界などの物性および放出特性の計算は、水分を除いたものとしなければならない。
- 純成分流体の場合
- フランジからの漏洩などについて、IEC Ed3.0は漏洩口面積の範囲を示しているが、(運転圧力/定格圧力)比などを考慮してリスクに見合った適切な値を決定する必要がある。
- 漏洩時に漏洩口の面積が拡大する可能性の有無によって漏洩口面積の示唆値が異なっているが、メンテナンスの状況、プラント建設経過年数、運転圧力、音速などを考慮して決定している。
- 屋外の換気速度を実測値から採用する場合、IEC Ed3.0では年間を通じて95%以上の時間に必ず吹いている風とすることが求められている。
平均風速を換気速度として採用した場合、リスク評価として甘くなる可能性があるので注意が必要である。 - 危険範囲
- 空間的な形状
防爆ガイドラインでは危険範囲の空間的な形状について言及がないが、IEC Ed3.0では下図のように示されている。
これらを基に漏洩や蒸発の状況に応じて危険範囲の空間的な形状を決定している。
- プロットプラン上の表示
弊社ではプロットプランに危険範囲を二次元ないしは三次元で表示することが可能である。
個別の放出源の危険範囲を重ね合わせていくことで施設全体でどのような危険範囲となるか確認でき、施設での運用実態に合わせた非防爆機器の使用可否エリアの明確なゾーン設定に活用できる。
また、ドローンの安全な飛行計画への活用や、将来的な自動飛行機能への応用など、空間的な位置情報が必要な分野への活用が見込まれる。
下図にサンプルを示す。
<三次元プロット図上に三次元で表現>
<二次元プロット図上に三次元で表現>
- 空間的な形状