爆発(BLEVE・ファイアーボール・VCE)及びフラッシュファイア(Flash Fire)

石油化学プラントなど危険物を取り扱う施設には火災、ガス拡散、及び爆発の災害リスクが潜んでいます。このうち爆発についてはその発生原因や状況により以下の災害に分類され、それぞれシミュレーションの方法も異なります。弊社のプログラムはそのすべてに対応しています。

爆発に関しては様々なシミュレーション方法が紹介されていますが、最も実用的な方法として、弊社のプログラムはコンビナートの防災アセスメント指針(以下、コンビ指針)に基づく方法を主に採用しています。なお、弊社のプログラムは屋外の開放空間で発生する災害を対象とするもので、屋内における爆発等については数値解析手法でシミュレートします。

  • 蒸気雲爆発VCE(Vapor Cloud Explosion);
    被害を与えるほどの爆圧を生じる、屋外で起きるガス雲の爆発
  • BLEVE(Boiling Liquid Expanding Vapor Explosion)
    ブレビーと呼び、沸騰液膨張蒸気爆発や沸騰液体蒸気拡散爆発などと訳される。
    液体が急激に沸騰することによる爆発現象であり、容器の破損によって引き起こされるものである。
  • ファイアーボール(Fireball)
    BLEVEなどで大気中に放出された可燃性蒸気が空中に浮いたまま急激に燃焼し、火球となって非常に大きな輻射熱をもたらす現象である
  • フラッシュファイア(Flash Fire)
    爆圧を生じない爆発的燃焼.。
    可燃性ガスが拡散して広がった着火源に到達したときに、爆発下限界以上の濃度にある範囲が急激に燃焼する災害である。
    フラッシュファイアの特徴は;
    • フラッシュファイアでは圧力波は生じない。従って衝撃による破壊は起こらない。
    • ガス濃度が爆発限界内にあること。これは爆発限界内の濃度エリア域にのみ存在する危険である。
    • 輻射熱というよりは炎そのものに包み込まれるため非常に危険である。燃焼時間は1秒以下と言われているので輻射熱は考慮する必要が無い。

爆発災害シミュレーションを実施する際に注意すべきは、例えば爆発はいきなり突然爆発するのではなく、その前に漏洩があり、ガス拡散があり、場合によってはフラッシュファイアがあり、防液堤火災があって、その後BLEVEが発生するなど一連の災害の流れがあるという事です。BLEVEによる圧力波は容器の空間容積が大きいほど大きくなるが、BLEVE発生前に容器の圧力上昇により安全弁が噴出し、液の漏洩量も上昇し、空間容積が増々大きくなります。このような変化を計算してシミュレーションに反映させる必要があります。
弊社では漏洩・蒸発などの初期事象から、ガス拡散・火災・爆発までの一連の流れについて一貫した災害シミュレーションを実施し、全体としての影響度評価を行っています。東南海地震などの大規模地震対策の流れの中で、このような一連の災害シナリオに基づく影響度評価は、今後重要になってきます。

 

 BLEVE 

 コンビ指針に基づき、下記2式にの何れかににより容器破裂前後の圧力の違いから放出エネルギーを計算し、TNT火薬当量に基づいて圧力波の到達範囲を計算します。

  • Blodeの式
  • Crowlの式

容器の破裂による飛散物(飛散破片)の到達距離はBLEVE発生時の容器に残っていた貯蔵液体量のべき乗に比例し、AiChE (American Institute of Chemical Engineers) の簡易式で計算する。 

尚、BLEVEはLPGなど可燃性液体にのみ起こるわけではなく、二酸化炭素の液体貯蔵容器の破裂などでも起こります。

 事故例 

コンビ指針に東日本大震災の時に起こった災害事例の詳細があるので参照されたい。
海外での事故報告は多数あり、そのうちの2事例を紹介する。

  • Haltern, Germany、1976/9/2
    鉄道タンカー(CO2、231ton、90%full)、CO2圧力7barg、温度-15℃→線路切り替え地点で16km/hで走行中、安全弁から白煙、その後他の列車から15m離れたところで爆発が起こった。破片は22個(全体の80%相当)に及び360mで2方向に吹き飛んだ。原因はタンクの脆弱性に因るものだった。
  • San Juan Ixhuatepec, Mexico City, 1984/11/19
    LPG球形タンク1,600m3x4基、2,400m3x2基、長さ13-32mx直径2-3.5mのBullets が合計48基、事故当時 合計11,000~12,000m3のLPGが貯蔵されていた。約500人死亡、約7,000人が負傷、周辺を含めてほぼ全滅という大きな事故であった。何らかの原因で漏れたLNGが3フィートの防液堤を超えて周囲に広がっていき、flare pitに達した時には約2mのvapor cloudになっていた。
    AM5:45、そこで引火しFlash Fireが起こった。その時ガスが侵入していた複数の建屋は爆発した。Flash Fireから1分後、大爆発が起き、Fireballが発生し1~2基のBulletsが飛んだ。火災と破片の衝突により次々とBLEVEが発生し、LPG球形タンク1,600m3x4基は完全に破壊、しかし2,400m3x2基は脚が座屈した程度でほとんど無傷だった。12Bulletsは100m以上飛び、1基はなんと1,200mも飛んだ。元の位置にあったBulletsはたったの4基だった。約300m離れた住居地区は大きな被害を受け多くの死傷者をだした。球形タンクの破片は10~20個、一方Bulletsは二つに引き裂かれていた。

 BLEVEシミュレーション実施例 

プロパン球形タンクが防液堤火災に続いてタンク破裂したケース

  • 下右表はコンビ指針等で圧力波の指標として記載されているもので、全ての指標の圧力波の距離を計算します。
  • 下左上表は入力データや計算結果をまとめたものです。
  • 下左下表は圧力波を指定して、それに対応する距離及びマップ上の色を指定した表です。
  • 下左右表は場所を指定して、その地点での圧力波を求めるものです。このケースでは計算していません。
  • 下図のマップは圧力波の及ぶ範囲を示したものです。
    半透明で示した範囲は、2つの圧力波間の範囲を示したもので、円(チューブ)は、ある1点の圧力波の到達半径を示したものであり、いずれの表現も可能です。破片の最大飛散距離も併せて図示します。



 

 ファイアボール(FireBall) 

 コンビ指針に基づき、ファイアボールの直径、中心高さ、継続時間及び周辺に及ぼす輻射強度を計算します。ファイアボールの大きさはガス量が大きいほど大きくなりますが、容器破裂時にフラッシュするガス量の3倍をファイアボール生成に貢献するガス量としています。 ファイアボールの直径、中心高さ、継続時間は次のいずれかの方法で計算します。

  • 燃焼ガス量として燃料と理論酸素量の和W(kg)を用いる方法
  • AIChEの方法

輻射熱の計算方法は次のいずれかとしています。

  • 球の中心に正対した受熱面に対する輻射熱を計算するもので、炎の温度を1750 °Kと仮定している。高めの炎温度としているため、大きめの輻射強度が計算される。
  • AIChEの方法;ファイアボールの温度に依存しない式となっているので物質による差が出る。また大気中の湿度による透過率の変化も計算に組み込んでいるので湿度が高く距離が大きい場合はより小さな輻射熱が計算される。

 事故例 

 コンビ指針に東日本大震災の時に起こった災害事例などがあるので参照されたい。
海外での事故報告は多数あり、BLEVEで紹介したSan Juan Ixhuatepec, Mexico City, 1984/11/19もその一つである。更にもう一件下記紹介する。

  • Texas City, Texas, USA 1978/5/30 Refineryの中の球形タンクエリア(球形タンク3基、Bullets5基、縦型ドラム4基)で起こった事故。7人死亡、10人負傷、Refineryはほぼ全壊。
    AM2:00、一つの球形タンクにイソブタンを注入中に、液面計の故障により上部から漏洩してしまった。その結果、不良溶接線箇所にクラックが入り漏洩した。火点は不明だが、Flash Fireが起こり、その後30~60秒後にその球形タンクが3つの大きな破片に破裂し、そのうちの一つは80m飛んだ。約800m3のイソブタンによるFireballが発生し、続いてすぐに5,6基のbulletsやドラムが破裂して様々な方向に飛散した。最も遠くまで飛んだものは約135mであった。
    Am2;20、別の球形タンクが爆発してFireballが発生。球形タンクの上部が飛んで190m先にあるfire pumpとFire water tankを破壊した。他の破片は更にrefineryの装置を破壊した。その安全弁は500mも飛んでいた。この2基目の爆発が1基目よりも大きなダメージを与えている。その後もAM6:00まで小さな爆発が続いたが大きな爆圧は起こらなかった。

 ファイアボール、シミュレーション実施例 

プロパン球形タンクにBLEVEが起こり、直ちにファイアボール発生したケース

  • 下右表は、コンビ指針等で輻射強度の指標として記載されているもので、全ての指標の輻射強度の距離を計算します。
  • 下左上表は、入力データや計算結果をまとめたものです。
  • 下左中表は、輻射強度を指定し、それに対応する距離及びマップ上の色を指定した表です。
  • 下左右下表は、場所を指定してその地点での輻射強度を求めるものです。このケースでは計算していません。
  • 下図のマップは、輻射強度の及ぶ範囲を示した3Dマップです。無論2Dマップもできます。
    半透明で示した範囲は、2つの輻射強度間の範囲を示したものです。 ファイアーボールの直径及び高さは計算通りの縮尺で示しています。

 

 

 蒸気雲爆発VCE (Vapor Cloud Explosion) 

VCEは、爆発によって押されたガス雲が狭い空間を通過することによって乱流が引き起こされて発生するものであり、開けた場所では一般的には起こる可能性は大きくありません。 但し、ものすごく大きなジェット噴流のケースでは発生する場合もあり得ます。
また、漏洩後どれくらいの時間が経ってから着火・爆発に至ったかによって影響範囲が全く異なるため、簡単ではありません。弊社のプログラムはコンビ指針に基づいたTNT当価法を採用しています。高圧ガス保安法によるK値を使用した計算方法に加えて、フラッシュ率や物性から距離や圧力波を直接求める計算方法でもシミュレーションできます。

 事故例 

コンビ指針に災害事例の詳細があるので参照されたい。
海外での事故報告は多数あり、そのうちの2事例を紹介する。

  • Flixborough in UK 1974/6/1 VCE , 配管から漏洩、Cyclohexane 30ton(50%ガス、50%がミスト状)
    30から90秒後に着火爆発、28人死亡、36人負傷、プラント全滅。漏洩源からの噴出ガス火災そのものによる乱流発生。TNT 相当15~45ton、圧力波5~10barg
  • UFA,West Siberia,ソ連、1989/6/3
    VCE、液化天然ガスパイプラインからの漏洩→8kmほどガス雲が広がった→約800m離れたところに鉄道があり、お互いに反対側から来た列車が交差→ガス雲が撹拌し乱流域→列車から引火→二度に渡る爆発→それに続いて二方向にFlash Fireが発生。
    爆発点から半径4kmの木がなぎ倒された。死者645人。

 VCEシミュレーション実施例 

圧力波マップなどBLEVEの場合とほぼ同様です。但し破片の最大飛散距離はVCEの場合は対象外です。
(実施例は省略)
 

 

 フラッシュファイア(Flash Fire) 

 弊社のガス拡散プログラムにより爆発下限界以上の濃度(安全を見て通常は爆発下限界の50%濃度を基準とします)空間をシミュレートし、3D濃度マップを作成します。この空間内に在る人や財産は非常に大きなダメージを受ける可能性があります。フラッシュファイアは瞬時に終わり、漏洩源に火が戻り、ジェットファイアや防液堤火災に繋がっていくことになります。

 事故例 

海外での事故報告は多数あり、そのうちの2事例を紹介する。

  • Donnellson,Iowa、USA,1978/8/3
    Flash Fire、液化プロパン8インチ輸送ライン(1,200 psiG)に838cmの亀裂が入り漏洩し、蒸発によりガス雲が地形に沿って拡散→ガス雲が30.4ヘクタールに広がり、森、農家、高速道路を含む地域に広がった。→引火して農家と車など火災により破壊され2人が死亡。高速では3人が90%の大やけどとなり、一人は後に死亡 漏洩箇所では120m高さの炎が吹き上げ続けた。
  • Lynchburg[,Virginia、USA、1972/3/9
    Flash Fire、対向車を避けようとしたトレーラー(加圧液化プロパン)が横転、岩に激突によってタンクが破損し 8,800kgのプロパンが漏洩→右手は切り上がった岩の崖+森、左手は渓谷(約20m下)で60m離れたところに民家があり、後続車両とドライバーは約80m、他の後続車の人たちは135m離れていた。→ガス雲が60m先の民家まで拡散した時、トラックから引火し直径120mのfire Ballのように燃焼→トラックドライバーは即死、後続車の人たちはガス雲の外だったが激しい火傷を負った。

 フラッシュファイア、シミュレーション実施例 

プロパン球形タンクから漏洩し防液堤からプロパンガスが敷地境界外に拡散したケース

ガス拡散シミュレーションの結果、濃度範囲が爆発下限界(LEL)濃度の50%以上となる範囲を、フラッシュファイア発生範囲として図示したものです。
AutoCADの三次元レイアウトやマップ上にフラッシュファイア発生範囲(下図の赤色範囲)を表示するので、建物などの危険範囲を高さ方向を含めて容易に判別可能です。